クマさんとの出会い
あれは'96年頃、私の仕事場がまだ大阪・中津にあった時のこと。マンションの入り口に真っ黒のでっぷりしたマレー系?の男性が立っていました。「こんな所に外国人がいるなんて、道に迷ったに違いない」と私が思ったのと同時に、彼が「昨日の御堂筋パレードを見たか?」と話し掛けてきたのです。彼は御堂筋パレードに招待されたシンガポールのインド楽団のリーダーで東洋ホテルに滞在していて、数時間の自由時間を利用して近辺を散策しているところでした。君はここで仕事をしているのか?どんな仕事だ?仕事場を見ることはできるか?と質問してきたので、私の仕事場に上がってもらって、記念写真を撮って、それからカンテに行ってコーヒーをごちそうしました。カンテにガネーシャ像が飾られていたこともあり彼は大変感激して、シンガポールの彼の家に招待してくれて、奥さんが手料理をごちそうしてくれて、手紙やプレゼントもいっぱい送ってくれるのだけど、私は英語が苦手なこともあってほとんど返事を出しておらず、彼の熱心な手紙や電話のお陰でお付き合いが続いている訳です。名前は、Mr.クマと言います。
この話を身近かな友人にすると、全員に「ようそんなコワいことするわ〜」と言われます。でも私は黒人の人に騙されたり襲われたりした経験も特にないので、「黒人がコワい」という感覚は、あんまり無いですねー。「コワいかなあ?」と思って見てみて、なんとなく解るような気もするけど、そんなに恐いと思わない。
ちなみに、クマさんの顔はこんな顔です。

今回は楽団のコンサートに招待してくれたので、行くことにしました。シンガポール・アート・フェスティバルが開催されていて、他のイベントにも興味があったからです。
ホテル
格安航空券をネットで手配して、ホテルの手配はクマさんに頼みました。リトルインディアにある、4階建ての結構立派なホテル。クリムトの絵なんか飾ってあったりして。アメニティグッズはバスタオルと石鹸だけでスリッパはないです。バスタブは大きかった。アロマオイルを持って行ってたので、毎日ハーブバスに浸かって気持ちよかったです。駅から遠くて結構不便だと私は思ったのだけど、でもクマさんは便利で安いからとの理由で選んでくれたみたい。距離の感覚に差があるようです。大通りに面していてバス停の近くなので、バスルートがわかっていれば、移動はラクだと思います。
CLASSIQUE HOTEL 住所240Jalan Besar Singapore 208913 1泊はS$65です。
待ち合わせ
「現地人は、約束時間通りに現れることはまず無い。ホテルの前でイライラした顔をして仕事相手を待ってる西洋人はとても多い。」とアジア方面で仕事した人からウワサには聞いていたのですが、これは本当でした。クマさんも…。「明朝9時にホテルに迎えに行く」と言われて待ってても、全然来ない。10時頃になって「11時から11時15分の間に行く」と電話が入り、到着したのは12時過ぎ…こんなパターンが続く毎日。こんな事なら午後から約束してくれればいいのに、人の時間を何だと思ってるの〜と言いたくなるのだけど、相手はそれほど悪いと思ってないのです。
ある朝ワンピースを着た私を見てクマさんが「コンサートの時には着替えるのか?」と聞くので「コンサートだからこのワンピースを着てます」と答えると「後でパーティーがあるから、もし持っているのならパンツの方がいい」と言われてビックリ。パンツ姿の方が正装になるらしい。(インド人のみに摘要されるマナーなのか、詳細は不明。)
セントーサ島
島全体が観光施設で、感覚としてはハウステンボス?かなあ。ここに水族館があるのですが、これが素晴らしかった!ベルトコンベアに乗って巨大な水槽のトンネルを進んでゆくのです。いーっぱいの魚やサメやエイ?がすぐ側をスイスイと泳いで、まるで挨拶しに来てくれるよう。あまりに楽しかったので3周もしてしまった。
別のビーチではピンクイルカのショーもあったのですが、これは…今イチ、物足りなかったです。5ドル払うとイルカに触れて写真も撮ってもらえるというので並んだのだけど、タッチはほんの一瞬で、撮影が流れ作業みたいに進んでゆく、というもので、期待した割にはちょっと…って感じでした。撮影が始まったとたん、空の雲が一気に消え去って太陽がギラギラ照りつけ、熱帯らしい写真に仕上がってました。
イルカビーチの木陰に、背もたれ付きの椅子を運んで、1時間くらいポケーッとしました。波と風が、耳と肌にとっても心地よくて、これが一番バカンスらしい時間だったなあ。
コンサート
コンサート会場はシンガポール国立大学のホールなので、日本で例えると東大、ってところかな?椰子の木が整然と並んだロータリーを進んでゆくとガラス張りの立派な建物があって、中に入ると観客の9割がインド人で、色とりどりのサリーがすごく綺麗でした。
コンサートの内容は、本当に素晴らしかったです。この為にわざわざ来た甲斐があった、と思わせるほどの完成されたものでした。それはそれは見事。古今東西の融合、ってのがテーマらしいのだけど、インドの古典音楽をベースにクラシックやジャズや世界各地の音楽をアレンジしたもの。すごくよかった〜…こんな表現しかできないけど、もうあれは、聞かないとわからない。日本音楽の譜面を見せてもらったら、坂田明の名前が入っていた…。
コンサートの後パーティー会場へタクシーで移動。コンサートの会合かと思ったら、親戚の女の子の誕生日パーティーでした。クラブを貸し切ったパーティー会場に50人位の人数が談笑したり踊ったりしている。これでも親族全員ではないらしい。ものすごい大家族です。
ディナー
コンサートの翌日はクマさん宅でのディナー。地下鉄からバスに乗って約10分の、13階建てのマンションの一室です。3LDKになるのかなあ。10畳ほどのリビングダイニングと6畳ほどのベッドルームが3つ、あとは台所とバス・トイレ。床は30センチ四方ほどのタイル状の白い石で、玄関の外に靴を脱いで裸足で入ります。
ディナーはチキンカレー。スプーンですくって一口食べてみると、辛いし、冷めてる〜!ちょっとびっくり。暑い地方だから熱くない方がいいのかなあ?そこで気がついたのですが、スプーンで食べてるのは私一人で、皆は手で食べているのです。私も手で食べたほうがいいような気がして、チャレンジしてみました。右手の五本の指全部を使って、チキン、じゃがいも、キャベツ等を右手だけでちぎって、お米とこね合わせて、舌に押し込むように食べる。これはこれで作法があるみたいで、かなり難しいのです。お米はパラパラだしカレールーもサラサラで、口に入れる時にポロポロこぼれ落ちて上手く食べられない。むずかしい〜。
でも、指で食べると辛さも冷たさも全然気にならないのです。かえってマイルドで、カレー本来の味を楽しめた、という気がします。以前パキスタンに2ケ月くらい住んでた知人が「カレーは指で食べる方が美味しい。日本に帰国してスプーンでカレーを食べたら、いきなりスプーンの冷たさが舌に当たって邪魔をするのに気がついた。舌で味わう前に指先で味わって食べるのがより美味しい。」と言っていたのですが、それと同じことを私も感じました。
家族全員で温かく歓迎してくださって、お土産ももらって、すごく幸せな晩御飯でした。
高島屋
高島屋の2階でバックを買ったら、その店員さんが楽しい人で、話し込んでしまいました。彼女の名前はアニー。中国系の顔で日本語ペラペラなのです。
「どうしてシンガポールに来たの?」
「友達がコンサートに招待してくれたの。インド古典のリミックスかな」
「じゃあ友達はインド人なの?!男の人?いくつ?」
「もう27才の娘さんがいる男の人だけど」
「えーっ!インド人のおじさん?!ダサくない?!」
「ダサい?!?!」
「そうよぉ、ダサいしクサいし、私インド人駄目。未だに知り合いいない。あなたよく友達になったわねぇ〜」
「いや…特に何も思ってないからねえ…」
「香港では上司がインド人だったけど、北部の人だったからまだ色は白くて臭くなかった。」
「臭いのがいやなの?シンガポール人なら大丈夫じゃないの?」
「シンガポールの男はダサくて全然ダメ。そりゃ教育水準は高いかも知れないけど…」
「でも香港は両方高いんじゃない?」
「そんなことないよ!日本の男が一番。東京歩いてたら、10人のうち3人は、カッコいい。私、藤木直人にそっくりな人見たのよ!」
「えー、ほんと〜?そんな人いるかなあ?」
「本当にいたのよ!東京の男はカッコイイ!でも女の人は、韓国が上だけどね。韓国の女性は本当に綺麗。肌がすごーく綺麗。」
…とまあこんな調子の会話を延々続けて、とっても楽しくて、翌々日の彼女の休日に家に遊びに行くことになったのでした。
アニーの家
彼女と会話をすればする程、かなり優秀な人らしいことが判ってきました。シンガポール出身で10ケ国語を操り、香港では某有名企業で秘書をしていて、現在は両親に呼び戻されてシンガポールに住んでいるのだけど、仕事で地球を飛び回っていて来週はジャカルタへ商談に行くと言ってました。彼女は私と全く同じ年齢で、高島屋の店頭にいるのは年に3回位との事で、貴重なご縁みたいです。
彼女の話しによると、賃貸で住んでいるシンガポール人は皆無なんだって。彼女自身も高級マンションに独り暮らし。超高級ではなく、そこそこのマンションらしい。バブル崩壊後に3800万円位で買ったから、悪い買い物ではなかった、との事。駅からは専用の送迎バスが15分間隔で運行している。エントランスにはガードマンが2人いて関係者以外入れないようになっている。広大な敷地に、子供用プール、流水プール、ジャグジープール、テニスコート、バスケットコート、フィットネスクラブやサウナ、コインランドリーなどの施設がある。部屋は3LDKなのだけど、各部屋がとっても広くて、ベッドルームには各々にトイレ&シャワーが隣接している。リビングはショールームみたいに広くてソファも美しい。メイドルームもある。このクラスのマンションに住む人はメイドを雇う人が多くて始めから設置されているらしい。メイドルームは洗濯機室の奥の、窓の無い非常に小さいスペースで、他の豪華な部屋とのコントラストが激しい。「これがメイドルーム…」なんだか物悲しい気分になってしまいました。彼女自身はメイドを雇っていないので物置きになっていたけれど。「メイドはいくら位で雇えるの?」って聞いたら「月4万円くらい。フィリピン人とかインドネシア人とか。」って。「このマンションはインド人が入れないから好きなの」と普通に言う。「インド人の住民はいないの?」ってきくと「インド人に払えないよ〜頭金20%は現金で払わないといけないんだから、インド人には無理」って答えでした。
それから宅配のピザをとって、一緒にスーパーマーケットで買ったビールを飲んで、そして私は空港へ向かったのでした。
人種、ということを非常に意識したのが今回の旅行でした。私はクマさんもアニーもどちらも好きで、ごく一部しか見ていないけれど、どちらも素敵だと本当に思ったのです。でも両者の間には巨大な壁があるように思う。クマさんが私と会話する度に「フレンドシップ」をすごく強調していた理由が、漠然とだけど分かったような気がしました。私には予備知識がなかったから、クマさんが感じているであろう被差別意識を、アニーに会うまで想像もできなかったのです。壁を壊す方法って、あるのかしら。ずーっと昔から多くの人が人種差別の為に苦労してきて、それは現在もまだ続いてて、解決に向かっているかどうかさえ、私にはわからないのだけど。ベルリンの壁みたいに、壊れる時には一気に壊れるものかも知れないし、でも意識を向けることが一番大事なんだろうなあ。日本で生きて生活できることが何て幸せなことか。それは海外で過ごして初めて実感できるものでした…。
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